ゼロから始める週末起業生活
とある起業・週末起業サポートツールのトリセツ小説
ゼロから始める週末起業生活

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飲食業でクレーム言われてばかりの毎日が嫌なので起業して週末はお悩み相談のビジネスをしています。(2)

「いや、平日は普通にOLなんやけど、週末だけハンドメイドしてる」 「それ趣味じゃないん?」 「一応、作品売ってるし、依頼も来るし、よく考えたらジョブになってるかも」 「なるほどなー」 ゲームの中での何気ないやり取りだったが、これがメグミの心に引っかかっていた。 これまでただダラダラとゲームに費やしていた休みの日を利用すれば、新しい何かができるのではないかと希望のようなものが芽生えていたのだ。 翌日。 遅めの朝食を終えた後、メグミはソファーに横になりながらスマートフォンをいじっていた。 「昨日あの人が言ってたのって週末起業ってやつだよね」 週末起業について調べてみると、思っている以上に実践している人が多いことに気づく。 「とりあえず休みの日を使って、人の役に立てること……あー、でも漠然としすぎてまとまんない」 眉間にしわを寄せながらスマートフォンでのリサーチを進める。 起業、ヒント……とにかく何か引っかかるものが欲しくて検索を繰り返していると、一つのサイトが目に留まった。 「ワクワクを生み出すアイディア探しアプリ、SeekSeeds……?」 そのタイトルを見て、探しものが見つかったような気になり、すぐにタップする。 SeekSeedsは、SNS上に散らばっている「こういうサービスがあったらいいな」の声を集めたWebアプリだった。 アイディアを求めていたメグミにとっては、まさに求めていたものだった。 画面を開くと、通常機能でたくさんの声が一覧で並ぶ。 その中で一番に飛び込んできたのが 「趣味のせいで結婚できないとかパートナーと続かないとか思っているなら、その考え方のせいなんじゃないか」 というもの。 実はメグミは少し前に、友達から食の好みが合わず結婚ができないという悩み相談を受けていた。 結局、話を聞くだけ聞くと友達の悩みは解消されており、その友達は晴れて幸せな新婚生活を送っている。 改めて考えてみると、これまでにも話を聞いていただけなのに気づいたら本人の悩みが解決していたということは多かった。 「悩み相談とかカウンセリングなら休みの日だけでもできそう……」 メグミは営業スマイルではない、自然な笑顔がこぼれるのを自分でも感じていた。 (そうか。まずは、私も、相手も笑顔になれることを、少しずつ……!) しばらくして、メグミはクラウドソーシングのサイトに、こう書き込んだ。 『お悩み相談、受け付けます。10分500円から』 どきどきしながら連絡を待つ。 得意分野は「恋愛」と「接客」、そして少し悩んでから、「オンラインゲームも好きです」と書き込んだ。 その直後、サービス購入の連絡の後に、通話が始まる。 「こんにちは!」 『こんにちは……』 気の弱そうな、女の子の声だった。 『あの、こういう相談サービス、始めてなんですけど……使うの、怖くて。でも、』 「でも?」 『お姉さんのプロフ、オンラインゲームが好きって書いてあって、笑っちゃって。それで、相談してみよーって、思いました』 えへへ、と電話口ではにかんでいる声が聞こえて、メグミもつられて笑顔になる。 「うん、ゲーム大好きだよ!」 悩みを持った女の子が、リラックスして相談しようと思ってくれた事実に、心の底から嬉しくなった。 ゲームの世界では簡単だけど、現実には難しいと思っていたジョブチェンジ。 でも実は、難しいように見えるだけで、始めてみればどうってことないのかもしれない。 「さて! あなたのお悩みはなんですか?」 メグミは明るい笑顔でそう言った。 新しい一歩が今、ここから始まるのだ。 完 前のページに戻る...

飲食業でクレーム言われてばかりの毎日が嫌なので起業して週末はお悩み相談のビジネスをしています。

「メグミちゃーん!3番テーブルお願ぁーい!」 「はい、わかりました!」 バタバタとメグミは3番テーブルへと向かっていく。 「お待たせしました!ご注文は?」 飲食店ではありふれたシーン。 若い女性が一生懸命に仕事を頑張っていて、微笑ましい……客観的に見れば、まさにその通り。 だが、当事者であるメグミの心の中はどこか淀んでいた。 その心の淀みを誰にも悟られないように、営業用のスマイルを常に顔に貼り付けていた。 何かを考え出すと貼り付けている笑顔がはがれ落ちてしまいそうで、ただただ仕事に集中する。 ただ、そういうときに限って厄介な客に当たってしまうのだ。 「お姉さんさぁ、可愛いけど、なんか心から笑ってない感じがするんだよねぇ」 「も、申し訳ありません……」 突然のクレームに動揺して、なんとか笑みを浮かべてみせる。 それでも客は納得せず、何度もメグミに笑顔を要求する始末だ。 様子を見に来た店長が割って入ったことでなんとかその場を離れることができたものの、周りに迷惑を掛けたという罪悪はどうしても消えない。 スタッフルームで着替えて、夜道をひとりでとぼとぼと歩き、満員電車というほどではないもののやや混んでいる電車に揺られる。 向かい合っている乗客越しに、窓の向こうの景色を眺める。 ゆっくりと流れていく景色は、いつもと変わらない。 電車を降りてコンビニに立ち寄ると自分へのご褒美にちょっとだけ高いアイスを買った。 帰宅するとすぐにお風呂に入る。 湯船に浸かると心も体も解けていき、自然と頭が過去を振り返る。 メグミが就職活動をしていた頃というのはいわゆる氷河期だった。 新卒というカードを失わないために大学に残る人も多く、就職ができないからと院に行くような人もいた。 ただ、メグミはそのどちらも選べなかった。 厳しい就職活動の中で、唯一内定がもらえたのが今の勤務先だった。 正直なところ、最初から望んでいたところではない。 選択肢がひとつしかなかったから、それを手にとった。 ただそれだけのことだった。 別に嫌で嫌で仕方がないというわけではない。 確かに嫌なこともあるけども、やりがいを感じられる日もあった。 でも、仕事を好きなのかと言われると答えに困ってしまう。 この仕事を一生続けられるのかという不安のほうが圧倒的に大きかった。 かと言って、仕事を辞めても次が見つかるとは限らない。 出口のない迷路に閉じ込められたかのような感覚だったが、お風呂の心地よさがそれを幾分か和らげてくれる。 自分の中に渦巻いているものを全部ふーっと吐き出してしまうと、メグミはお風呂から上がった。 着替えると冷凍庫から帰りに買ったアイスを取り出し、ソファに座る。 アイスを堪能しながらテレビを見ていると時刻が目に入る。 どうやらいつもよりは早くに帰ってこれたらしい。 「明日は休みだし……」 メグミはアイスを食べ終わるとパソコンに向かった。 メグミにとっての唯一の趣味とも言えるのが、オンラインゲームだった。 ひとりでダンジョンを冒険しマイペースに楽しむこともできるし、適当にパーティーを組んでやり取りを楽しみながらクエストをこなしていくこともできる。 オンラインならではの要素はあるものの、ごく普通のRPGだ。 今日はどうしたものかとダンジョンをフラフラしていると、友達というほどではない知り合い程度のユーザーが声をかけてくる。 「久々じゃん。元気だった?」 「うん、元気」 「仕事忙しかったん?」 「いやぁ、忙しさは変わってないけど、やっぱいろいろあるね」 「まぁ、仕事はなー。ゲームみたいにジョブチェンジ簡単にできればいいのに」 「それな」 「あ、でもよく考えたら私ジョブチェンジしてるかも」 「どういうこと?」 続く...

給料を時給換算したら悲しくなった内気な私は週末限定でテレコール営業代行のビジネスを始めました。(2)

マキは彼女の自慢に10分程付き合うものの、疲労を理由に電話を切った。 温めた冷凍食品を食べながら、趣味の映画鑑賞でもしよう。そう考えたマキは、早速準備を始めてスマホで映画を観始める。 しばらくして電子レンジの『チン』という音が鳴ると、湯気の立ったチャーハンを取り出した。 「あー、お腹空いた。早く食べちゃおう」 空腹から逃れるため、匙を動かす。チャーハンを口に運びながら、映画に集中しようとする。けれども、どうしてか集中できない。 リサの話が耳に残っているのだ。 「私も給料を上げたいな。冷凍食品じゃなくて、もっと豪華なものを食べたい」 ふと思いついたようにスマホを手に取り、ネットの検索エンジンを使って『副業』『起業』といったキーワードで検索をしてみる。 スクロールしていくと、1つ気になるものがあった。 「…事業やアプリのネタ探しをするためのSeekSeeds?SNS上の声を集めている?何それ、面白そう」 マキは、興味本位で『SeekSeeds』のリンクをタップした。 開いてみると、実際にSNS上の 『こんなアプリやサービスがあったらいいな』 という声が並んでいる。 「すごい。本当に、副業や起業のヒントが見つかるかも!」 画面をスクロールし、たくさんのツイートに目を通していく。 SNSを漫然と眺めることはあっても、起業のヒントはないかな、なんて思いながら眺めたことはなかった。 そう思うと、言葉の羅列が全て、なにかの可能性を孕んでいるみたいにきらきらと輝いて見える。 さらに操作すると、通常機能から抽出した名詞・動詞をランダムに組み合わせる『事業アイディアガチャ』や『キーワードガチャ』という機能を見つける。 「事業アイディアガチャ…回してみよう」 どうせ無料のガチャだ。回したいだけ回して、遊んでみるのも良いだろう。 特に期待せずにガチャを回してみると、誰が・何を・どうする事業を始めるのか、提案をしてくれた。 非常に便利である。しかし、マキの中では最初に見たSNS上の声が引っかかっていた。 『声を加工するアプリ、私も探しています。オンライン通訳に活用できないかな』 『家事代行で検索したら、最初のサイトには料理だけサービスに入っていなくて。毎日ご飯を誰かに作ってほしい』 『出退勤を打刻できる簡単なアプリを教えてください。出退勤の打刻と勤務時間・給料の計算もしてくれるアプリがあれば楽なんだけどなぁ』 マキは『SeekSeeds』を通して聞いたSNSの声を、頭の中で反復する。声を加工する。家事代行。出勤時の打刻と勤務時間・給料の計算。 「声…代行…出勤…勤務時間………あぁ!そうだ!!」 彼女は、ペンと紙を取り出して書き始める。 “声・代行=電話代行サービス”、出勤・勤務時間=束縛されない。 もし、空いた時間や週末に自宅で電話代行サービスを運営して、お金を稼げたらどれだけ楽だろうか。 面倒な通勤をしなくてもいい。満員電車に乗らなくてもいい。自宅にいながら、自分の好きなペースで仕事ができる。 自分で賃金を決めて、自由に仕事の計画を立てられる。企業に所属することだけが正解ではない。そう考えたマキは、空白が無くなるまで次々と書き連ねていく。 彼女が最終的に行きついた結論は、保険相談を通した商品サービスの成約を目的とする「テレコール営業代行」である。 保険会社勤務の経歴と、現在のコールセンターの経歴が活かしやすい。なぜ今まで思いつかなかったのだろうかと思いながらも、マキは『SeekSeeds』に感謝する。 これが無かったら自分は起業や副業に関するアイデアが漠然としていただろう。永遠に今の勤め先に縛られていたかもしれない。 また、本格的に行動する意思が生まれなかったかもしれない。 「よし、これから頑張ろう!!まずは個人で副業として始めて、徐々に慣れたら起業していこう。対面式セールスと違って、電話なら緊張しなくて済むよね!」 マキは嬉しそうに起業の計画を書き上げた。 数年後には今の会社を辞めて独り立ち。それまでに、週末や休日を使って1日1時間程の副業をする。実績を積んだ後、電話代行サービスを本業へ変える。 仕事の大半を自宅で行えるようになるのだ。対面営業を出来るほど社交的とは言えないマキにぴったりの職業である。 彼女は鼻歌を歌いながら、早速副業の準備を始めた――。 完 前のページに戻る...

給料を時給換算したら悲しくなった内気な私は週末限定でテレコール営業代行のビジネスを始めました。

「…はぁ。クレーマーばかりで嫌になっちゃう」 マキは駅のホームを出た後、帰路についていた。通勤時間は片道1時間。乗り継ぎは3回。毎回、出勤時に2時間も電車に揺られている。 さらに、駅から自宅に向かうまで徒歩10分はかかる。ふと彼女は自分の人生を思い出して、空を見上げた。 夜11時ということもあり、黒色の空に満点の星々が輝いている。秋の風が頬を撫でた。 私はなぜ、こんな夜遅くに帰宅する生活を続けているのだろうか。空虚な気分になる。 マキは2年制の短期大学を卒業後、3年間保険会社に勤めたが、結果的に離職を選んでいる。 なぜなら、マキが入社した保険会社は膨大な勉強量を必要としており、資格取得のための勉強も含めて、給料に見合う仕事とは思えなかったからだ。 家賃や電気代等の支払いによって、常にお金に飢えていた。ストレスが溜まった彼女は、退職届を提出して離職。そして、1ヵ月間無職となった。 その間、少ない貯金を使いこみながらクレジットカードで生活費を賄ううちに『もしこの生活を続けていたら』という想像が頭によぎり、数ヶ月後の家賃が支払えない可能性に気づいたのである。 少し内気な性格のマキが慌てて職探しを行った結果、現在は対面を避けるためコールセンターの仕事に就いている。 つまり、テレビショッピングを介して電話をかけてきた消費者に対して、商品の購入を促す従業員だ。 「対面式の営業とは違って、顔が見えない営業だから…罵倒も多いし辛すぎる」 毎日愚痴をこぼしながらも、マキは2年間この仕事を続けていた。 なぜなら、マキは少々内気な性格のために、対面式の仕事だと緊張してしまい上手くいかないからだ。保険会社で働いていた時に気づいたことである。 また、25歳となった現在、ほんの少しだがセールスが上達している実感があるのだ。最初はギリギリだった『売り上げノルマ』を何とかこなせるようになり、あと何年か続けたら『成績の反映による昇給』の可能性も考えられる。 しかし、彼女は不安を感じていた。仕事は毎日忙しく、平日は常にヘトヘトだ。毎朝出社することも憂鬱に思える。 さらにクレームばかりが印象に残っている上に、お客様から感謝される機会が少ない気がする。 特別好きというわけでもないこの仕事をずっと続けていて、自分は大丈夫だろうか。 おまけに、年齢が上がるにつれかつての友人たちの出世や起業の話を耳にすることも度々あり、「このままでいいのだろうか…」と、自分でもよくわからない焦りも感じていた。 「…転職か、起業でもしてみようかな。今の仕事もいつまで続けられるかわからないし」 マキは漠然と考えながら歩を進める。しばらくすると、彼女の自宅であるアパートの一室に辿り着いた。 ワンルームの狭い部屋。玄関の扉を開けて、さほど柔らかくない布団へ飛び込む。 「やっぱりお布団は最高!さすが、私のオアシスだよねぇ」 マキは、我ながら意味の分からないことを呟いたと思いながらも、枕に顔をうずめながら服のポケットに手を伸ばした。自分のスマホを取り出す。 友人からのメッセージや、動画サイトの通知が何件か届いている。1つ1つ丁寧に確認していく。すると、友人のリサから電話が来ていた。 彼女の身に何かあったのだろうかと心配になり、急いでかけ直してみる。 「…もしもし?リサ、どうしたの?」 ところが、リサと呼ばれた女性の返事はとても明るかった。 『ねぇ、マキ!聞いて!あたし、先月起業してさ。今、時給3,000円くらいなの! ヤバくない?』 「はあ?」 リサは、マキが以前働いていた保険会社の同期だ。 当時から上昇志向が強く、特に給料については、同期の誰よりも評価されて高い収入を得たいと豪語していた。 給料を時給換算する独特の癖があり、昇給の度にその数字に一喜一憂していた姿が強く印象に残っているが、その癖は数年経った今も抜けていないようだ。 てっきり今も保険会社にいると思ったが、どうやらそうではないらしい。 「久々に電話してきて、いきなりお金の話はちょっと」 『ごめんごめん、興奮しちゃって! だって、うちらってあの頃、正社員なのに時給換算で1,000円行かないくらいで働いてたじゃん?マキが辞めてからも私は続けたけどさ、頑張って昇給したって、時給にしたら10円とか20円くらいの微々たるものだったわけ。それが、起業したら一気に3倍だよ?すごくない?』 まくし立てるように言うリサは、興奮が抑えきれないようだった。 リサにとっては、まるで魔法みたいな素敵な出来事を伝えたいというだけなのかもしれないけれど、マキはどうしても、自分の状況と比べてモヤモヤしたものを感じてしまう。 続く...

普通の事務OLだった私は就職先での毎日が退屈過ぎて週末起業で小さく自分のビジネスを始めてみることにしました。(2)

気付けば、その場でコウヘイに電話を掛けていた。 深夜、突然の電話に最初は動揺していた様子だったけれど、私のアイデアを聞くなり、彼もどんどん乗り気になって「アプリ作れるやつ、探そう。商店街のそれぞれの店には俺から声かけてみる!」と、明るい声が返ってくる。 それから、仕事を終えるとすぐにコウヘイと集まり、様々なアイデアをぶつけ合った。 煮詰まれば、何かヒントはないかとSeekSeedsを覗き、そこにあるアイデアのかけらを自分たちのアイデアと掛け合わせてブラッシュアップを繰り返していく。 おおよそのサービスのイメージが決まった頃、幸いにもかつての同級生にシステムエンジニアとして働いている人がいるのが分かり、その人にもチームに加わってもらって、アプリは完成した。 アプリ以外の部分、たとえばそれを使ってもらう商店街側の調整はコウヘイが奔走してくれて、サービス開始時の配達も、彼が自分の仕事と並行してやることになった。 アプリをリリースし、後はもう、待つだけ。 初めての注文は近所に住む友達で、それに喜んでいると、じわじわと注文の数が増えていく。 数週間経った頃には、配達を一周ではなく二周に分けて行わなければならないほど、多くの注文が飛び込むようになった。 「最近、アプリからの注文での売上と、店先での売上が同じくらいになってきたんだよ。つまり、二倍くらい」 「えっ、すごいね」 「だろ? おまえが、こういうアプリがあったら便利じゃないかって企画して、人を集めて進めてくれたおかげだよ。ありがとな」 「いや……私は、何かしたかっただけで……」 「でも、こうやって形にしたっていうのがすげーんだって。こういうの、向いてるんじゃない?」 そう笑う彼の言葉に、私も思わず笑顔になった。 いろんなアイデアの種や困ったことから、アイデアを生み出して、それをサービスという形にして……。 それをおこなったここ数ヶ月は忙しかったけれど、疲れよりもずっと、充実感の方が大きい。 普段の事務の仕事ではつまらなくて疲れるばかりだったのに……こんなに晴れ晴れしい気持ちになれる疲れなら大歓迎だ。 このアプリを、他の商店街にも売り込んでみよう。 売れたら、それで新しい機能を開発して、もっと便利に、いろんな人に使ってもらいたい。 数が増えたら問い合わせに対応する人を増やしたりしないといけないかもしれないし……やることはたくさんだ。 でも、私の中から湧き上がってくるのはワクワクする気持ちだけ。 そうか。こういうワクワクすることを仕事にすることだって、できるんだ。 こういう仕事を始めようと思う、って、みんなに伝えよう。 そう思ってSNSを開くと、見慣れたアプリのスクリーンショットが目に飛び込んできた。 リツイートしたのはコウヘイだ。 その投稿をタップしてみる。 『うちの近くの商店街、まとめて配送してくれるサービス始まったんだけどめっちゃ便利! 野菜新鮮だし!』 そこに並ぶ言葉に、胸がどきどきした。 私でも、できるんだ。 仕事をしながらでも、こうして一歩踏み出してみれば、こうして人の悩みを解決するサービスを創り出すことができる。 『こういうの、向いてるんじゃない?』 彼の言葉を思い出す。 そうだ。一歩進んで、新しいことを始めてみること。 それができれば、きっといろんなワクワクに出会うことができる。 次は、何を始めよう。 次に待つワクワクに思いを馳せながら、私は走り出した。 完 この物語は都宮ヨルさんに執筆していただきました。 前のページに戻る...

普通の事務OLだった私は就職先での毎日が退屈過ぎて週末起業で小さく自分のビジネスを始めてみることにしました。

「お疲れ様でした」 定時から5分経った頃、パソコンの電源が切れたのを確認し、そう言って立ち上がった。 フロアにいる8人の社員が私に「お疲れ~」「いつも通り早いね~」と笑いかける。 私が就職したのは、地元の小さな電機会社だ。 社員もここにいる8人と私、そして奥の部屋にいる社長の総勢十人という、非常にこじんまりとした規模の会社だけれど、地元のつながりのおかげか業績は良く、残業も少ない。 私は事務で、毎日ほぼ変わりのない作業を繰り返す……そんな感じだ。 「あっ、マユカちゃん、ちょっとちょっと」 「はい?」 鞄を肩に掛けたタイミングで、課長が私を手招きした。 帰ろうとすると声を掛けられるのもいつものことだ。 ため息をつきそうなのをなんとか堪えつつ、課長の席まで歩いていく。 「なんでしょうか」 「パソコンが壊れちゃったんだよ」 「はあ……」 「数字ばっかり出てきちゃって」 手元を見れば、Caps Lockの横のライトがしっかり点灯している。 ロックを解除して「これで大丈夫なはずです」と言うと、課長はキーボードを叩いて「おお……」と感嘆の声を漏らした。 「やっぱりマユカちゃんは仕事ができるね」 その言葉に曖昧に笑いつつ、「お先に失礼します」と部屋を出る。 毎日、こんなことばかりだ。 書類をコピーしたり、宛名を書いたり、電話を受けたり、お茶を出したり……。 起こることといえば、さっきみたいなちょっとしたパソコンのトラブルくらい。 仕事って、こんなにつまらなくていいんだっけ? こんなことがしたくて、就職したんだっけ……。 足早に向かった先の居酒屋には、幼馴染のコウヘイが待っていた。 「よっ」と先に飲んでいたらしいグラスを持ち上げる彼の向かい側に座る。 仕事の愚痴を語っていると、彼は「うちだって変わんないよ」と小さく笑った。 「うち、八百屋だからね。仕入れて、並べて、接客して……何なら、おばあちゃんたちの世間話聞いてる時間の方が長いくらい。すっかり寂れちゃって、昔からのお客さんしか来ないから、売上も悪くなる一方だし」 「そうなんだ……」 「人生こんなつまんなくていいのかって俺も思うけど……まあ、こんなもんなのかもな……」 そう言われて、ずき、と心が痛んだ。 学生の頃のコウヘイはもっと勝ち気で、子供だったので「宇宙一の八百屋にする」みたいなことを言っては、いろんなアイデアを私に語ってくれた。 それは全部突拍子もないものだったけれど、その何もかもをすべて諦めた顔をしている彼が、なんだか見ていられなかったのだ。 商店街、か……。 帰り道、すっかり人気のなくなった商店街を歩きながら、思いを馳せる。 確かに、私も最近使わなくなってしまった。 そんなことを考えながらSNSを見ていると、たまたま、友達のリツイートが目に飛び込んでくる。 ワクワクを生み出すアイディア探しアプリ SeekSeeds……? ワクワクを生み出す……それが本当にできたら、このつまらない日々が変わるかも。 ……なんてね。 ちょっと夢見がちだなあ自分、と思いながら、リンクをタップする。 開いた先のサイトには、こんな言葉が表示されていた。 『SNSに散らばる「こんなサービス(アプリ)ないかなー」という声を集めてみました』 見れば、いろんな呟きがそこには表示されている。 しばらくそれを眺めていると、二つの呟きが目に留まった。 『うちの近く、小さいスーパーしかないから野菜の種類が少ないんだよね。アプリで簡単に注文できたらいいのに』 『電池と人参と肉を注文したいけど、うち田舎だから、それを一緒に配達してくれるところがないんだよな。都内だと大手がやってたのになぁ。アプリでワンタッチで買えるようにしてくれ~』 ……これ、商店街だったら、解決できるんじゃない? ふとそんなことを思った瞬間、頭の中でいろいろなものが繋がっていくのを感じた。 商店街で一つの注文アプリを作って――この辺りに住むお客さんの注文なら、八百屋も魚屋も電気屋もまとめて配達できるようにする。 田舎は大手サイトの生鮮食品の配送可能地域から外れているから、競合にならない。 更にこういうアプリを一つ作ってしまえば、いろんな商店街に同じアプリを使ってもらうビジネスもできる――! 続く...

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